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井伊直弼

彦根城の桜が30年後に消える?国宝指定が植え替えを妨げる理由

春の彦根城。満開の桜が天守を彩る(2025年撮影)
kirishima

毎年春になると、彦根城は数百本の桜に彩られ、多くの観光客を魅了します。しかし今、そんな風景が30年後には見られなくなるかもしれないという懸念が広がっています。その理由は「桜の老木化」だけではありません。「国宝指定」という名誉が、実は新たな桜の植え替えを妨げているのです。

桜の名所・彦根城に忍び寄る“終わりの時”

お堀際の老朽化した桜の画像

彦根城には約1100本もの桜が植えられています。その多くは昭和期に植えられたソメイヨシノで、寿命は一般的に60〜80年とされています。現在、老木化が進み、倒木や枝折れの危険も増しています。

ところが、桜を新しく植え替えることが簡単にはできない事情があります。それは、彦根城が「国宝」かつ「特別史跡」に指定されているからです。

国宝・史跡に指定されるとどうなる?

文化財保護法に基づき、国宝や特別史跡に指定されると、そこに存在する建築物・石垣・土塁・堀・植栽などが「景観を構成する要素」として一体的に保護されます。

つまり、桜の木も単なる植木ではなく、「歴史的景観を構成する文化的資産」として扱われるのです。このため、たとえ老朽化していても、勝手に伐採・植え替えを行うことはできません。

植え替えには文化庁の許可が必要

たとえば1本の桜を撤去し、新しい苗を植える場合でも、文化庁と事前に協議し、正式な申請と許可が必要です。許可には時間がかかり、申請には景観や歴史性に関する詳細な資料が求められます。

このため、樹木の更新が計画的に進まず、結果として「桜のない彦根城」になってしまう未来も現実味を帯びています。

他の名所との違い──弘前城や姫路城の取り組み

桜の名所として知られる弘前城(青森県)では、老木の更新を目的とした「桜の世代交代プロジェクト」が積極的に進められています。文化財指定を受けていながらも、文化庁と連携しながら段階的な植え替えを成功させています。

姫路城(兵庫県)でも同様に、景観を守りつつ新たな桜の育成を模索しています。

一方、彦根城では国宝としての指定範囲が広く、石垣や堀と一体となった景観が厳格に守られており、変更へのハードルが特に高いのです。

文化財と自然の命のはざまで

文化財としての景観を守ることと、命ある植物の自然な老化を受け入れること。この二つは時として矛盾します。どちらも大切だからこそ、難しい選択を迫られるのです。

彦根市では今後、文化庁との協議を重ねながら、段階的な更新や代替植栽の可能性を探っていくとされています。

法律が文化財を守りきれない?本末転倒な現実

本来、文化財を守るためにある法律が、逆にその文化財を“失わせる”要因になってしまう——そんな本末転倒な現実が、今の彦根城で起きています。

文化財保護法は、変化する自然や生きた景観の価値よりも、「過去の姿の保存」に重きを置きがちです。しかし、桜のように命あるものは、放っておけば枯れ、景観そのものが失われます。

現行制度の課題点:

  • 植え替えなどの行為が「改変」と見なされ、許可が得にくい
  • 桜など自然要素の寿命に対応できる柔軟性が制度に乏しい
  • 現場の実情よりも書類主義・形式主義が優先されがち

改善に向けて必要な視点:

  • 「更新による保存」を制度的に認める法改正
  • 桜のような自然文化財に特化したガイドライン整備
  • 地域主導の保存計画に対する支援体制の強化

未来の彦根城の桜を守るためには、文化庁や国による柔軟な法運用、あるいは法制度そのものの見直しが求められています。

まとめ:今ある桜を大切に、次世代のためにできること

彦根城の桜は、今まさに“最後の満開の世代”かもしれません。美しい景観を未来に残すためには、制度と運用の見直し、そして市民の関心と支援が欠かせません。

私たちができることは、この問題に関心を持ち、現状を知り、文化財と自然の共存について考えることです。春の彦根城を訪れたとき、その桜がどれだけ貴重な存在か、ぜひ心に留めてみてください。

お堀から見る景観の画像

お堀から見る春の絶景──彦根城屋形船のご紹介

今回、この記事の元となる「桜が消える未来」の話は、彦根城内を流れるお堀を運航する【彦根城屋形船】のガイドさんから伺いました。

屋形船は、内堀をゆったりと巡る約30分の遊覧コース。春は満開の桜が水面に映り、夏は新緑、秋は紅葉と、四季折々の彦根城の姿を水上から楽しむことができます。特に桜の季節は、水面に舞い散る花びらと石垣に咲く桜のコントラストが見事で、写真映えも抜群です。

ガイドさんによる丁寧でユーモアのある案内も魅力で、城や歴史にまつわるエピソードを聞きながらの船旅は、まるでタイムスリップしたかのような感覚に。

ぜひ彦根城を訪れた際には、桜とともにこの屋形船にも乗ってみてください。きっと忘れられない体験になるはずです。

【彦根城屋形船 情報】

  • 営業期間:3月中旬〜12月初旬(季節・天候により変動あり)
  • 所要時間:約30分
  • 発着場所:表門橋付近(玄宮園そば)
  • 料金:大人1,300円、子ども600円(2025年春時点)
  • 詳細・予約:彦根観光協会または現地チケット売場にて
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霧島@山好き
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無位無官の隠居暮らし
こんにちは、ブログ「やまのこゑ、いにしえの道」へようこそ。 昔から歴史が好きで、とくに人物の生きざまや、史実の裏にある知られざる物語に惹かれてきました。 このブログでは、そんな歴史の記憶をたどりながら、実際にゆかりの地を歩いて感じたことを綴っています。 時には山の中の城跡へ、時には町に残る史跡へ。 旅はあくまで、歴史に近づくための手段です。 一緒に「歴史の声」に耳を傾けていただけたら嬉しいです。
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